労働組合の幹部が組合員を無視し、会社と締結した「５６歳以上の基本給を３０％カット」の労働協約は無効。元バス運転手が勝訴！ 　(2005/11/26)

　広島県福山市の元バス運転手の浜本仁司さん(64)＝福山市＝、早瀬和雄さん(61)＝神辺町＝、山本勝昭さん(63)＝府中市＝の３人に差額分の計１，０２０万円を支払うよう会社に命じた判決が１０月２８日、最高裁で確定しました。

　３人の代理人をつとめた木山潔弁護士は「労働組合が結んだ協約といえども、労働者の権利を著しく損なうものは合理性を欠き、無効だとする点で意義のある判決です」と語ります。

　鞆鉄道株式会社と私鉄中国労働組合鞆鉄道支部は、協約の内容を１９９７年７月３日、既に確定しておいて、９・１０・１１の３日間、組合員約１５０人を集めて組合支部の集会を開き、「組合３役に交渉を一任してくれ」と説明。浜本さんらの反対意見は聞かず強行し、交渉結果の報告もないまま、翌月分の給与からカットされました。

　浜本さんは「これから交渉に入ると説明したのに、裁判の中で、うそだったことがはっきりした」と言います。早瀬さんは「集会を形式的に開いただけ」、山本さんは「こんなふざけた話はないでしょ」と当時を振り返ります。

　組合の専従書記長、委員長の経歴をもつ市議会議員が、組合の特別執行委員の肩書きで会社から報酬を受け取っていた事実も発覚。組合幹部は会社経営者と一緒にゴルフを重ねていました。

　９８年１０月に浜本さんが広島地裁福山支部に提訴。２００１年６月に早瀬さん、山本さんが原告に加わりました。組合は「３役が決めたのに、会社を相手に裁判するとは何事か」と、提訴した見せしめに運転業務を取り上げ、朝から晩までバスの清掃や、真夏の炎天下での草取りなど、妨害やいがやらせを集中。
　当初、８人で提訴を相談しましたが、結局、３人が裁判をたたかってきました。

　おりしも２０００年９月、みちのく銀行事件で、５５歳以上の専任職の就業規則変更による給与の５０％カットを最高裁が違法と判断。労働者の既得権を奪い、不利益な条件を一方的に課す労働条件の変更は許されないとの判決を見た浜本さんは「それまで確たる判決がなかったが、これで勝てたと思った」と言います。

　広島地裁福山支部は０２年２月、「本件協約による賃金減額は、その内容において５６歳に達した者に、これを甘受すべきとは到底言い難い」として同社に全額の支払いを命じました。

　広島高裁は、協約が組合の大会で事前に承認されていないことも無効の理由とする判決を出し、最高裁第２小法廷が会社の上告を棄却して勝訴が確定しました。

　その一報を電話で受けた山本さんは思わず「ばんざい」と叫びました。「私は命をかけてましたから、負ければ命がないと」。早瀬さんは「３０％の差額は、失業給付や年金の受け取り額にも影響する。今後も強気でいきたい」と喜んでいます。